バイオ医薬品企業上位15社が生み出す収益は、業界全体の約75%を占めています。そのため、これら上位企業の将来的な業績は「業界全体の動向を左右する極めて重要な要素となる」といっても過言ではありません。さらに、各企業の戦略や投資判断、そしてその事業実行力は、業界全体におけるイノベーションの方向性や株主価値の創出に大きな影響を与えています。各社は独占権喪失(LOE)により2024年には収益の25~30%が影響を受けるリスクに直面していながらも、2030年までには約2,000億ドルの収益増加を見込んでおり、全体として約30%の成長が期待されています(図1参照)。

しかし、この成長は決して均等なものではありません。予測される収益増加の約80%はわずか5社によって生み出されると見込まれており、業界大手とそれ以外の企業との格差が一段と拡大していることが明らかになっています。

こうした状況の中で、「どの分野に」「どのように」投資すべきかを見極めていくためには、成長を支える基盤的な推進要因について正しく理解することが極めて重要です。例えば、特定製品への資産集中度、既存製品とパイプライン製品のバランス、製品ライフサイクルのポテンシャル、注力すべき治療領域の選定、さらには外部イノベーションの活用方針などについて的確に把握することで、十分な情報に基づく意思決定が可能となり、長期的な価値創造につながります。

成長は一部に集中、広がる不均衡

バイオ医薬品企業上位15社において、2030年までの収益成長は約600の製品によって生み出されると予測されています。そのうち約半数は2024年時点ですでに販売されており、残る半分は2025年から 2030年にかけての承認が見込まれています。1

しかし、成長の内訳を見ると、その分布は大きく偏っています。2030年までに見込まれる業界全体の収益成長の80%は、上位15%の製品によって生み出されると予想されています。さらに、これら上位製品の約半数を占めるグルカゴン様ペプチド-1受容体作動薬(GLP-1)を除外した場合でもこの構造に大きな 変化はなく、依然として上位20%の製品が成長の80%を創出すると予測されています(図2参照)。

こうした状況のもと、大手企業は、単に新薬の承認件数を増やすのではなく、極めて高い収益が期待される製品に資本とリソースを戦略的に集中させています。これら高インパクト製品は、販売地域の拡大、適応症の追加、あるいは治療効果による差別化などを通じて、上市後も収益が持続的に拡大する傾向があります。そのため、経営陣にとっては、確度の高い成長ポートフォリオを早期に見極め、選択と集中を徹底することが極めて重要となります。投資を広範なポートフォリオに分散させすぎると、個々の製品に対するインパクトが希薄化し、収益性の低下を招きかねません。

成長を支える既存製品

2030年までに見込まれる収益成長の70%以上は、2024年時点ですでに市場で販売されている既存製品によってもたらされると予測されています(図3参照)。これは、事業の実行力と製品ライフサイクル管理の重要性を改めて示しています。この価値を確実に取り込むためには、上市後のパフォーマンスを最大化し、市場アクセスの最適化や販売地域の拡大を推進することが不可欠です。すなわち、持続的な成長は、新薬の承認件数そのものではなく、既存製品が持つ成長余地をどこまで引き出し、収益目標を達成、さらには上回ることができるのかによって左右されています。

ただし、既存製品に過度に依存した戦略では、長期的な成長を持続することができません。どれほど優れた既存製品ポートフォリオであっても、市場の飽和や独占権喪失(LOE)から逃れることはできないためです。そのため、成長の勢いを維持するためには、既存製品を補完する形で新製品を継続的に市場に投入していくことも重要となります。このような新規投入は、単に収益の減少分を補うだけでなく、ポートフォリオを更新して競争力を維持するとともに、企業のイノベーション創出力に対する投資家の信頼を高めることにもつながります。

複数疾患適応製品が価値創出を牽引

複数の疾患に適応可能な、いわゆる「ポートフォリオ型 (“Portfolio-in-a-product”) 製品」は、バイオ医薬品企業上位15社における最も重要な成長要因の一つとなることが明らかになってきました。これらの製品はポートフォリオ全体の約3分の1に過ぎないものの、予測される収益成長のおよそ半分を生み出すと予想されています。

特に、2030年までの収益成長の約20%は、4つ以上の疾患に適応可能な13の治療薬によってもたらされる見込みです。こうした製品が生み出す並外れたインパクトは、各企業の成長力を決定づける主要な差別化要因となっています。この影響は極めて大きく、上位5社だけで1,000億ドル超の成長が見込まれており、下位10社の合計を2倍以上上回る規模となっています。

したがって、「複数疾患への適応拡大」という成長余地を有する治療薬に高い優先順位を置くことは、企業成長において重要な戦略となります。こうした戦略は、より高い収益機会をもたらすだけでなく、研究開発や事業投資から得られるリターンを最大化する上でも非常に有効です。

成長の中心は「コア領域」の治療薬

2030年までに見込まれる収益成長の約80%は、各社の売上の10%以上を占める「コア領域」の治療薬によってもたらされると予測されています。これは、自社の強みである領域を軸に成長戦略を構築することが、極めて重要であると示しています。すでに高い競争力が確立された領域に注力することで、蓄積された専門知識やステークホルダーとの関係性、既存の商業基盤を活かしたエビデンス創出が可能となります。その結果、新たな領域に参入する場合よりも市場投入を円滑に進めやすくなり、最適な市場アクセスや高い市場受容度、市場シェアの獲得につながります。科学的な複雑性や競争が激化するバイオ医薬品市場においては、コア領域でのプレゼンスと事業実行力を着実に高められる企業ほど、資本効率の高い成長を継続できると予想されます。

自社開発/外部開発の最適なバランス

M&A、ライセンス供与、戦略的提携を通じた外部イノベーションの活用は、バイオ医薬品企業の成長を支える極めて重要な原動力となっています。2030年までの収益成長の内訳を見ると、自社開発製品と臨床開発の中盤以降に導入された外部イノベーション製品が、それぞれほぼ半分を占めると予想されています。なお、この想定には今後の取引は含まれていないため、将来的には外部イノベーションの比重がさらに高まる可能性が示唆されます。

こうした環境下で企業が競争力を維持・強化していくには、自社研究開発と外部リソースをどう組み合わせるかが重要な戦略課題となります。自社パイプラインに過度に依存すると、次世代モダリティや最先 端の科学技術に触れる機会が限られてしまいます。一方で、外部イノベーションに頼りすぎると、利益率の低下や事業統合に伴う課題、さらにはパイプラインの将来像が見えにくくなるといったリスクも避けられません。競争が激化するバイオ医薬品市場において持続的かつ資本効率の良い成長を実現するためには、自社開発と外部開発をバランスよく組み合わせた戦略が不可欠となります。

経営陣への示唆

バイオ医薬品業界における将来的な成長は、どの製品にどのように投資するのかというポートフォリオ選択よって左右されます。以下に示す基本原則に沿ってポートフォリオを見直し、明確な強みを打ち出すことで、今後の競争環境において他社を上回る成果を生み出すことが可能となります。

  • 上市後の展開とライフサイクル管理を徹底する
    上市後の市場展開は、臨床開発時と同じ水準の戦略性をもって取り組む必要があります。適応症の拡大やグローバル展開、長期的な価値創出を見据えて製品を育てていくことで、既存製品の成長余地を最大限に引き出すことができます。
  • 高いインパクトと拡張性を備えた製品に注力する
    適応症拡大の可能性が高く、成功が見込める製品を早い段階で見極め、重点的に資源を配分することが重要です。こうした製品に投資を集中させることで、大きなリターンが期待できるだけでなく、ポートフォリオ全体の成長にも勢いが生まれます。
  • コア領域を深掘りする
    科学的専門性、ステークホルダーとの人脈、商業基盤などが既に確立している治療領域において企業プレゼンスをさらに強化することが肝要です。一方で、十分な知見のない領域に手を広げることは、戦略の焦点をぼかし、組織運営を複雑にしかねません。
  • 自社研究と外部イノベーションのバランスを最適化する
    自社研究開発を軸としつつ、的を絞ったM&Aやライセンス供与、戦略的提携を組み合わせることで、柔軟で機動力のあるデュアルエンジン型のソーシング体制を確立できるでしょう。これにより、リスクを抑えながら資本効率を高め、さまざまなモダリティや開発段階のイノベーションにアクセスすることが可能になります。

競争環境が一段と厳しさを増すなか、これらの原則に沿って事業開発および投資戦略を立案・実行できる企業は、持続可能かつ質の高い成長を実現するための確かな基盤を備えていると言えるでしょう。

詳細については、こちらまでお気軽にお問い合わせください。

巻末注
1医薬品の数に承認確率に基づくリスク調整は反映されていません

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