Volume XXVI, Issue 70 |

診断と治療において放射性医薬品の使用がますます拡大 

放射性医薬品は、がんをはじめとするさまざまな治療分野において、診断と治療の両面で活用される進化著しい化合物群です。その二重の機能性により、現在多くのパイプライン開発が進められており、M&Aにおいても高い関心を集めています。企業がプレシジョン・メディスン(精密医療)の実現を目指す中、放射性医薬品は今後さらに普及していく可能性を秘めています。 

放射性医薬品の化合物は、リンカーでつながった放射性同位体とリガンド(標的部位)を組み合わせで構成されます。これにより、標的となるマーカーを発現する体内の特定の細胞に放射性同位体を選択的に届けることができます(図1参照)。 

診断用途では、同位体は患者の体外に放出される放射線を発し、撮影後数時間以内に減衰する適切な半減期を持つ必要があります。。主な技術として、PET(陽電子放出断層撮影)とSPECT(単一光子放射断層撮影)が挙げられます。PETでは、18-Fなどの陽電子を放出する同位体が使用されます。PETは、早期診断や進行状況のモニタリングを行うために極めて重要な高解像度の3D画像を提供します。SPECTでは、99-mTcなどのガンマ線を放出する同位体手法であり、解像度はPETに劣るものの、広く利用しやすい特徴があります。高解像度を提供するPETは、一般的にがんや脳障害の機能的画像診断に利用される一方で、コスト効率が高くより広く利用しやすいSPECTは心臓のイメージングに用いられます。

治療用途においては、放射線医薬品をがん細胞に直接運ぶことができるため、全身の健康な組織に与える損傷を最小限に抑えます。組織への透過力が小さいアルファ粒子とベータ粒子により、周囲の組織への影響を最小化します。このことは、外部放射線治療に対する腫瘍の感受性を高めることを目的としている放射線増感剤(NBTXR3、AGuIXなどの非放射性の薬剤)とは大きく異なります。放射性医薬品による治療は、アルファ線やベータ線を放出する同位体で行います。アルファ放射体(225-Acなど)は、極めて局所的に放射線を放出します。小さな塊となったがん細胞を標的とするのに適していますが、新しい治療選択肢であり、まだ十分に実証されていません。反対に、ベータ放射体(177-Luなど)は、より確立された治療法で、低エネルギーで組織への透過力が高く、大きな腫瘍や広がった腫瘍の治療に使用されます。

放射線治療には困難の歴史があります(図2参照)。第一世代の承認では大きな商業上の課題に直面しました。非ホジキンリンパ腫の治療薬として発売されたゼヴァリン(2002年、90-Y同位体)とベキサール(2003年、131-I同位体)は、半減期が比較的短い(約2.7日)同位体で、中央集約型の製造施設に依存していたため、地理的な制約が生じ、治療可能な患者の範囲が限られていました。またリツキサンが医師に好まれていたため、市場浸透はさらに限定的でした。

ゾーフィゴ(2013年、223-Ra)は、2013年に初めて市場投入されたアルファ放射体でした。第一世代に直面した多くの課題に対処しましたが、特に末期前立腺がんを対象として高い有効性が認識されていたにもかかわらず、商業的には最大売上高は約4億ドルで、期待されていた15億ドルに届くことはありませんでした。1 その要因として、ジョンソン・エンド・ジョンソンのザイティガとの併用時の安全性懸念や、非放射線治療の新規治療法の登場が影響したと考えられます。 

放射線治療開発の初期の困難を超え躍進へ 

近年、ベータ線を放出する177-Lu化合物は、明らかに商業的な成功を収めており、これらは主にノバルティスの転移性去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)向けに開発したプルビクト(2022年)**や、**消化管・膵神経内分泌腫瘍(GEP-NET)向けのルタテラ(2018年)に代表されています。2024年第2四半期のプルビクトの売上高は3億4,500万ドル2で、アナリストはこのブロックバスターとなった治療薬の売上高が2026年までに20億ドル近くに達すると予想しています3。2022年と2023年には一時的な供給不足に陥りましたが、2024年初めにインディアナ州インディアナポリスに新設された4番目の製造拠点によりこの課題は解決されました。

近年の臨床と商業的な検証、およびルタテラの独占権の喪失が近づいていることにより、この分野への関心にさらに拍車が掛かっています。治療薬パイプラインも急成長しており、2024年9月時点における開発中のプログラムは100を超え(図3参照)、過去5年間で2倍に増えました。治療法は主に腫瘍領域の適応症に重点が置かれています。対照的に診断用途では、心臓疾患と神経疾患が追加の主な治療領域となっています。 

ベータ線を用いた治療においては、177-Luの後期臨床開発が活発化しており、またルタテラのジェネリックの開発も進んでいます。銅67(67-Cu)は代替の同位体として注目されていますが、まだ十分に実証されていません。177-Lu薬剤で臨床試験を行ったリスク軽減リガンド(PSMA、SSTRなど)と組み合わせて、主にフェーズI/IIの開発初期段階にあります。

アルファ線を用いた治療では、最適な同位体を巡る議論が続いています。ゾーフィゴが223-Raを初めて上市したにもかかわらず、研究活動の関心は225-Acに向いており、パイプライン薬剤において177-Luに次ぐ波として位置付けられています。関心を引いている理由は、約10日間の半減期と、比較的標的分子につながりやすい特徴によるものです。しかし、研究者の間では212-Pbの人気も高まっています。これは、212-Pbが約10時間という大幅に短い半減期を持つことにより、少ない回数でより多くの量を投与(分割投与)でき、投与スケジュールの最適化をはかることが可能になるためです。また、健康な組織に対する毒性とのバランスを取りながら治療効果が得やすくなります。

他の腫瘍領域の適応症における新規標的の登場により、PSMAやSSTRを標的とするリガンド以外への関心が業界で高まりつつあります。特に、FAP(線維芽細胞活性化タンパク質)は、さまざまな腫瘍における治療と診断の可能性により、初期段階の開発活動が見られます。 

バイオ医薬品企業が放射線治療への参入の可能性を検討する上で考慮すべき重要な点 

放射性医薬品分野はこれまでにない関心を集めています。バイオ医薬品企業には、参入を成功させるために考慮すべき重要な要素がいくつかあります(図4参照)。同位体、リガンド、治療適応など、適切なイノベーション領域への初期投資に加え、広範にわたる放射線治療のプラットフォームを構築するための追加投資について慎重に検討する必要があります。上市を成功させるためには、販売能力の構築について考慮し、製造を自社で完結するか外部に委託するか、非常に複雑な判断を行わなければなりません。特に、半減期が短い(つまり、数時間で減衰する)放射性同位体は、従来とは異なる製造やサプライチェーンのインフラが必要であり、運用面や財務面に与える影響が大きい可能性があります。

バイオ医薬品企業にとって、M&Aは放射線治療への迅速なアクセスを提供するため、近年、大手製薬会社によるM&A活動が活発になっています。2023年2月以降に発表された放射線治療薬に関する主な買収案件6件のうち、4件はノバルティス、アストラゼネカ、ブリストル マイヤーズ スクイブ、イーライリリーによって行われ、買収価値は総額で86億ドルに上りました。サノフィなど他の大手製薬会社も開発の初期段階にある企業との契約を通じ、放射線治療における存在感を高めています。

R&D投資に注力するバイオテクノロジー企業の増加に支えられたパイプラインの拡大により、M&A活動が活発化し続けています。L.E.K.コンサルティングでは、放射線治療薬の開発パイプラインポートフォリオを持つ70社以上を追跡しています。そのうち約3分の2は非上場企業で、拠点は北米、ヨーロッパ、アジア太平洋地域にほぼ等しく分散しています。

中小型株上場企業の手元資金の中央値は約2,000万ドル、企業価値の中央値は約1億2,500万ドルで、ある程度の資金猶予期間があります。2020年と2021年には上場企業への資金が急増しましたが、これは数社のIPO(クラリティ・ファーマシューティカルズなど)によるもので、その後は、2023年のレイゼバイオのIPOを除き、より緩やかなペースとなっています。同様に、過去2~3年における非上場企業のシリーズAまたはシリーズBへの投資額の中央値は4,000万~5,000万ドルに達しました。放射性医薬品のスタートアップは、2023年に約10億ドルのプライベート資金調達を行いました。これらのアーリーステージのスタートアップの多くは、PSMAやSSTR以外の新しいリガンドの研究を手掛けています。

既存の製薬会社が適切なM&Aターゲットを見極めるためには、ポートフォリオの臨床と商業的な将来性に加え、サプライチェーンと製造能力を考慮に入れる必要があります。サプライチェーンの安定性確保のための取り組みは、パートナーシップ活動から明らかであり、2024年1月から4月の間に、同位体サプライヤーとバイオ医薬品企業との間で4件の供給提携が発表されました。。

バイオ医薬品企業は、自社製造するか外部委託するか判断する必要があります。製造とサプライチェーンの改善は重要なテーマであり、引き続き重点的な投資分野となる見込みです。同位体の半減期と、異なる製造方法(ジェネレータや粒子加速器など)についても引き続き慎重な検討が必要です。特に製造方法に関しては、設備投資、立ち上げやすさ、フットプリント、運営に必要な専門性の間でのトレードオフを考慮に入れます。 

結論 

イノベーションと戦略的買収が続いていることは、この分野の成長力と有望な軌道を際立たせ、放射線治療薬の使用がより主流となる重要な転換点であることを示しています。

L.E.K.では、放射線治療薬における機会と課題を探索するため支援を行っています。詳細については、当社までご連絡ください。急速に進化しているこの分野で成功を収めるための戦略的アドバイスを提供します。 

L.E.K.Consultingは、L.E.K. Consulting LLC.の登録商標です。この文書に記載されているその他すべての製品およびブランドの所有権は、各所有者にあります。 © 2025 L.E.K.Consulting LLC

巻末注
1「アルファ放射性リガンド療法の商業とビジネスの側面」 Emanuele Ostuni、Martin R G Taylor (2023年) Frontiers in Medicine、https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9932801/#B43
2ノバルティス(2024年)、「中間財務報告書(要約) - 補足データ」 https://www.novartis.com/sites/novartiscom/files/2024-07-interim-financial-report-en.pdf
3フィアース・ファーマ(2023年)、「ノバルティスがプルビクトの新規患者受け入れを停止、製造拡大を急ぐ一方で放射線治療の供給不足に陥る」https://www.fiercepharma.com/manufacturing/novartis-halts-pluvicto-new-patient-starts-struggles-radiotherapy-supply-amid
4サノフィ(2024年)、「プレスリリース:「サノフィ、ラジオメディクス、オラノメッドが希少がん治療における次世代の放射性リガンド治療薬のライセンス契約を発表」https://www.sanofi.com/en/media-room/press-releases/2024/2024-09-12-05-00-00-2944919;サノフィ(2024年)、「プレスリリース:サノフィとオラノメッドが次世代の放射性リガンド治療薬の開発で提携」https://www.sanofi.com/en/media-room/press-releases/2024/2024-10-17-05-30-00-2964590  

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