金利の急上昇により、資金調達コストが上昇し、新興バイオテクノロジー企業が利用できる資金が減少した。こうした逆風を受け、バイオ医薬品企業が取る可能性の高い対応は以下の通りである:
- 後期段階の資産に対する集中投資:大手であれ中小であれ、バイオ医薬品企業は研究開発パイプラインとそれに伴う支出を詳細に再検討せざるを得なくなっている。最近の多くの事例を見ても、バイオ医薬品企業は、初期段階のプログラムや科学的検証が限られている資産を犠牲にし、短期間で投資回収が見込める後期段階の臨床プログラムへの投資を優先している。パイプラインの合理化により、施設にかかる固定費/間接費が、製造する必要のある少数のバッチに分散されるため、設備当たりの売上原価(COGS)が増加する。こういった慎重な研究開発投資を行う傾向が、中長期的に続く可能性が高い。
- 外部委託率の増加:バイオ医薬品企業は、研究開発費に加え、製造インフラ投資戦略の再評価の必要性にも迫られていた。評価額が史上最高値に達し、資金調達が基本的に自由で、資金も広く行き渡っていたCOVID-19景気の間は、社内の生産能力/製造能力の構築を目指すビジネス事例の実現は、今日の環境下で行うよりもはるかに容易であった。またそれと並行して、数多くのCDMOが資金的な追い風を利用して生産能力/製造能力を拡大し、ATMの製造経験を蓄積し続けた。このような状況では、バイオ医薬品企業が製造インフラの増設に伴う固定費や間接費の発生を回避しようと試みることから、ATMの製造の外部委託率がさらに高くなる可能性がある。
- バイオ医薬品企業間の提携の増加:パイプラインや実生産規模への拡大に対応するため、数多くのバイオ医薬品企業が、生産能力/製造能力の増強を必要としている一方、プログラムを削減したバイオ医薬品企業は不要な余剰能力を抱えている。ATM用の製造施設は通常、特定のモダリティを対象として設計されているため、改装や別の目的で利用することが困難である。そのため、遊休生産能力がバランスシートの足かせとなるのである。その結果、ATMの余剰生産能力を有するバイオ医薬品企業が、他のバイオ医薬品企業との提携や合弁事業を検討し、固定資産の利用効率を上げて、コストのかかる資産の減価償却を回避しようとする可能性がますます高まっている。
財務上・経営上の課題がいくつかあるものの、社内の製造能力の構築・維持には戦略的価値が残されていることが多い。社内に製造能力があれば、奨励策や優先順位が競合する可能性のある外部提携先への依存度が低下する、またはゼロになる可能性がある。これにより、製造業者は、規制リスクを第三者に委ねるのではなく、施設の技術移転、工程、品質を徹底して管理できるようになる。また、バッチ製造の優先順位やタイミングも徹底して管理できるため、CDMOを活用した場合には対処が難しいバッチ不良や需要の変化が生じた場合でも柔軟に対応できる。Eli LillyやNovo NordiskがGLP-1を巡り激しく競争している中、この戦略がはっきりと見える形となって現れてきた。Novo Nordiskが先頃、Catalentから複数の施設を買収し、供給上の制約を緩和できるようにしたことで、市場での勝利という点から有利な立場に立つ可能性が出てきたのである。
医薬品製造投資戦略に関する考慮事項
医薬品製造における内製か外注かの経営判断をするには、細かく分かれた多くの側面から検討する必要があるが、以下にあげた重要な問いかけを使えば、経営面、財務面、戦略面から見た得失評価ができる:
- 需要予測の精度はどの程度か? 予測は常に推定ではあるものの、予測の中には、他の予測よりも「確定的な」仮定に基づいているものがある。例えば、既知の患者数が少なく、競合薬の数が限られている疾患を適応としたATMは、患者数が多く、現在も今後も競合企業が数多い疾患を適応とした場合よりも需要の推測が簡単かもしれない。承認される見込みが多岐にわたるために需要シナリオの幅も広い資産のポートフォリオを考慮する場合には、これがさらに複雑化することになる。
- 上市までにかかる時間は? 既存の施設を活用するにしても、GMPに準拠した原材料を作るための製造インフラの調達、設計、構築、設置、検証に3~5年かかることがある。投資の決定は、臨床/市販材料のクリティカルパスにならない程度の早い時期に行う必要があると同時に、医薬品を製造するための工程を適切に設計し、大規模な投資の妥当性が確保できるほどそのプログラムに対するリスクが十分に軽減できるだけの時間をおいた時期に決定しなければならない。
- COGSに競争力はあるか? 数量が少ない、および/または製剤の種類のばらつきが大きいポートフォリオの場合、社内製造に対する投資では効率が低くなる可能性がある。競争が激しい疾患を適応とした資産や価格設定に対する強い逆風が吹いている市場である場合において収益性を維持するには、COGSを同業他社と同程度かそれ以下に抑えることが重要である。社内製造に対する投資にある財務リスクを把握できるよう、需要が低い場合に考えられるシナリオを考慮し、安定したCOGSモデルを作成することが不可欠である。
- 工程技術に競争上の優位性があるか? ATMの多くで、最先端の治療薬を製造するために新たな工程技術が設計・活用されている。製造工程の背景にある知的財産により競争上の優位性が生じているのであれば、工程をさらに広範囲に利用できる可能性のあるCDMOと連携するより、戦略的な社内投資を行う方が、差別化要因を維持できると考えられる。
今回の分析は、ATMの製造に特化したものであるが、その枠組みは他のモダリティ(モノクローナル抗体、小分子など)にも広く適用できる。金利がゼロではない時代が続く中、これらの問いかけに対する答えを出すことで、社内製造に対する投資の決定を行う際につきものの財務上・戦略上の考慮事項に関する情報を手にすることができるだろう。
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