Variability in Large Pharma Launch Performance
healthcare meeting
Find out what’s causing variability in new pharma product launches, and what companies can do to optimize the value of their assets.

大手製薬企業は、研究開発の効率と有機医薬品の開発力を向上させるため、投資を行っているところであ る。しかし、そのような企業は、成長目標を達成する上で、社外の資産や技術に大きく依存し続けている。社外的な手段を用いてイノベーションを追求していく中で、これらの企業には、製品の認可、特定の製品やポートフォリオを対象とした合弁事業の設立、他社の買収など、自由に選べるさまざまなトランザクションオプションがある。大手製薬企業のトランザクション活動では多くの種類の取引が混在していることがあるため、これらの取引体制の違いは必ずしも明確であるとは限らない。

バイオテクノロジー業界の業績が引き続き市場全体を下回り、大手製薬企業が重大な課題(例:主力ブランドの独占販売権の期限切れ、IRAによる価格圧力)に直面する中、資産の外部化の必要性が高まっている。堅調なキャッシュフローや安定したバランスシートからも明らかな通り、製薬企業にはその財務力により、かなりの準備金があることから、かつてないほどM&A志向が強まっている。Merck、Lilly、GSK、Novartisといった企業が、革新的ではない医薬品資産を最近次々と売却していることが、この傾向をさらに強めている。

その結果、資本が解放され、これらの大手製薬企業がバイオテクノロジー業界で連続的な買収を行えるようになった。

M&Aを通じて大手製薬企業がどのように成長できるかについての洞察を得るため、L.E.K. Consultingでは、2010年以降になされた上場製薬企業のM&A取引の状況を分析した。その際用いた買収の定義は、臨床段階または商用段階のいずれかにある、革新的な治療法に重点を置いている上場バイオテクノロジー企業の買収とした。L.E.K. Consultingの分析では、グローバルなトランザクション(米国、EU、アジア太平洋地域)を対象とし、臨床段階または商用段階の買収のみに焦点を当てる一方で、資産のライセンス供与や提携取引は除外した。また、ジェネリック医薬品、一般用医薬品、医療機器、診断薬、前臨床プラットフォーム企業の買収も、この分析の対象から除外した。

L.E.K. Consultingでは、どのようなタイプのバイオテクノロジー企業が買収されているのか、代表的な買収 企業はどこか、成功するトランザクションが持つ特徴はどのように定義されるかに加え、2024年以降のM&Aをどう予想するかを分析していくものとする。 

2010年以降に起こったバイオ医薬品企業の統合 

2010年から2023年にかけて、上場バイオ医薬品企業のM&Aトランザクションは195件あり、M&A総額は 約1兆ドル、年間平均では700億ドルが投資された。インフレ調整して現在の価値に換算すると、これは1兆 2000億ドルのM&A投資、年間平均830億ドルの投資に相当する。このトランザクション量を広い視点から見て、世界のバイオ医薬品企業上位20社の株式価値を合わせると、2023年末時点で3兆6000億ドルに達する。

2010年以降、M&A活動は周期的に行われており、2019年には16件とピークに達し、総額1890億ドルになった。注目すべきは、2021年と2022年のM&A取引の減少で、これは経済の不確実性とCOVID-19パンデミッ クが原因であった。しかし、2023年にはバイオテクノロジー企業のM&A取引が28件あり、トランザクション総額は1310億ドルと、顕著な回復が認められた(図1参照)。

株式価値が250億ドルを超え、買収企業の時価総額の20%を超える取引として定義した変革的M&Aを除いてこれらの数値を分析したところ、この1年は過去10年のうちでもM&Aが最も活発であった年の1つとして突出していた。最近のM&A活動の急増は、マクロ経済環境の改善と、CMSパートDの対象となる製薬企業の収益に影響を与えることになる、差し迫った薬価交渉から生じる圧力に起因している可能性が高い。 

買収企業のエコシステムを詳細に分析したところ、上位15社に入る買収企業の活動が特に活発であり、その 取引額は、2010年以降の取引総額となるおおよそ1兆ドルのうち、約80%に相当することが明らかとなっ た。2010年以降、これらの上位の買収企業が完了した買収件数は平均で5件である。印象的なのは、このような企業のM&A活動が過去5年の間に大幅に増加しており、2019年以降のM&A年間平均投資額が60億ドルに達していることである。この数字は大幅な増加をはっきりと示すものであり、それまでの年間平均投資額である30億ドルの2倍となっている。

2010年以降、卓越した製薬企業4社を合わせると、600億ドル超(インフレを考慮して現在の価値に置き 換えると約800億ドル)が上場企業のM&Aに投資されている。この多額の投資は、当該業界の総取引額の40%に相当する。この期間に、M&Aのリーダーであるこれらの企業はそれぞれ、重要な変革をもたらす買収を完了している。特筆すべき例としては、Bristol Myers SquibbとCelgeneとの合併、AbbVieによる Allerganの買収、武田薬品によるShireの買収、PfizerとSeagenとの合併などが挙げられる。その他の注目すべきM&A企業は、どちらかと言えば日和見主義的な買収企業となっている。

2010年以降、これらの企業は1社当たり総額150億ドルから500億ドル(インフレ調整して現在の価値に換算するとおよそ200億~600億ドル)となる一連の買収に関与してきた。一般に、これらの企業は、より合理化されたポートフォリオを有する企業をターゲットとしており、広範かつ多様な製品群というよりはむしろ、平均で1~5つの臨床資産を持つ企業に焦点を当てることが多い(図2参照)。 

M&Aの主な焦点 

T2010年以降に行われた買収の大半は、商用段階にある資産買収である。これらの買収は取引総数の約 50%(195件の取引のうち94件)、取引額で言えば約75%に当たる。インフレ調整して現在の価値に換算した場合、総額1兆2000億ドルのうちの8500億ドルになる。このように商用段階のターゲットにかなりの重点が置かれていることは、リスクのない収益を確保したいという買収企業の意向をはっきり示している。これは、ポートフォリオの成熟度や差し迫った特許期限切れといった課題を、より確実に管理しなければならないという必要性が後押しする形となった戦略である。残りの取引活動は、臨床段階の資産が中心となっており、概 念実証(POC)前の段階(取引数は52件、現在の価値で1050億ドルに相当)とPOC後の段階(取引数は49件、現在の価値で合計2080億ドルに相当)に均等に分かれている。

予想通り、平均買収額は主要資産の開発段階と強く相関していた。インフレ調整すると、第1相段階にある主要資産のポートフォリオの平均評価額では12億ドルであったものが、単一の資産または商用段階にある複数の資産を中心とする買収ポートフォリオの評価額となる90億ドルにまで、この買収額は段階的に増加する(図 3参照)。 

治療領域別に取引の内訳を分析したところ、バイオ医薬品企業を対象としたM&A活動では引き続きオンコロジー領域が他を圧倒している(図4参照)。2010年以降、オンコロジー領域の総取引額は、それに次いで額が大きい3つの治療領域を合わせた取引額を上回っていた。2019年以降の近年の傾向を見てみると、オンコロジー領域のこの優勢度がさらにはっきりと分かる。この領域が業界全体の取引総額の約25%、総取引件数の30%を占めているのである。

オンコロジー領域重視という傾向はこのまま安定して続く可能性が高いものの、2023年後半には、神経・精神疾患領域の取引にも大幅な増加がみられた。特に最近の取引例として、AbbVieによるCerevelの買収や BMSによるKarunaの買収などが挙げられる。この結果、神経・精神疾患領域は、2019年以降の累積買収額という点では2番目に価値が高い領域となっており、2023年だけで300億ドルという巨額のM&Aが行われている。 

免疫疾患領域も勢いを増している。2010年以降、免疫疾患分野における12件の取引のうち、9件が過去5年の間に行われている。この治療領域の平均取引額は、現在3番目に高い。

さらに、買収企業の間では、いずれの治療領域でも、希少疾患や遺伝性疾患を専門とする企業の買収を推し進める傾向がますます強くなっている。2010年以降、この疾患分野では47件の取引が行われており、過去5年間では28件である。希少疾患や遺伝性疾患に関する資産買収は、特に高い評価額となっている(現時点での評価額の中央値は35億ドル)。

M&Aの主な原動力を評価する際の最後の重要な要素は、買収の規模である。過去5年にわたり、戦略的ボ ルトオン買収(株式価値が300億ドル未満、および/または買収企業の時価総額の20%未満の取引と定義する)は、これと同時期に行われた変革的M&Aよりも明らかに多く、全取引に占める割合は95%を超えている。 

変革的合併よりもボルトオン買収が好まれる理由として、主に次の2つの要因による影響があると考えられる:

  • 第一に、変革的買収による価値創造には、ばらつきがあることが明らかとなっている。これらの取引は、収益の増加、より堅調なパイプライン、さらに大きな財務的な余裕によって証明されている通り、買収企業 の規模を大幅に拡大させる可能性があるものの、株主価値の創造に与える影響は一貫していない。この分析の対象となった7件の変革的買収のうち5件について、買収企業の株主総利益率(TSR)を分析したところ、製薬指数と比較した場合、取引から1年後にはTSRが平均で5%低下し、3年後には10%低下したことが明らかとなった1。それとは著しく対照的に、AbbVieとAllerganの間で行われた取引は際立っており、3年間でそれぞれ、45%、114%の増加がみられ、指数を大幅に上回っている。
  • 第二に、AmgenによるHorizon買収提案やPfizerによるSeagenとの合併など、注目を集めた事例から も分かる通り、合併・買収に関して米連邦取引委員会(FTC)が警戒を強めていることが明らかとなって いる。最近では、この警戒が早期開発段階のライセンス契約にも及んでおり、FTCは、SanofiがMaze Therapeuticsと締結しようとした、ポンペ病を適応とした第1相段階にある資産に対するライセンス契約の差し止めを求めている。このような規制当局による監視の強化が原因となり、市場にある程度の警戒感が生じた結果、大規模な取引に対する意欲が弱まってきている。つまり、大規模なM&Aを検討している企業は今や、複雑化した規制状況を乗り越え、独占禁止法違反の可能性を考慮し、規制当局の承認を得るために大幅な譲歩をする必要が出てくる可能性を評価しなければならなくなったためである。 

M&A実績の特徴 

臨床段階や商用段階の買収を対象とした評価額を決定する主な要因は、将来的な売上予測である。L.E.K. Consultingでは、取引決定という点でそのようなガイダンスにみられる限界についての理解を深めるため、買収前に売り手側の予測がどの程度信頼できるかを分析した。

我々の分析の対象となった主要買収資産の多くで、買収前に予想されていた上市タイムラインや収益予測が実際と異なっていた。買収に対する割増金を正当化するために誤った精度を求める傾向に起因する市場に対する過度に楽観的な予測と、臨床開発の間に買収資産が直面することになった予想外の障害とが組み合わさって、このような支障が生じることが多い。

我々は195件のM&A取引を分析したが、上市から3年間の収益に関して信頼性の高いデータが得られたの は、81の主要資産についてだけであった。買収企業は臨床開発のさまざまな段階を経て資産を発展させることに長けており、その臨床/規制面での成功率は業界の標準と一致しているというのが、当初の洞察であった。しかしながら、これらの買収資産のうち約半数で、取引前の当初の予測よりも上市の時期が遅れていた。平均すると、このような遅れは2年ほどである。

市場での業績という点では、主要買収資産のうちかなりの割合(53%)で、売り手側のアナリストが定めた収益予想を下回っており、M&A後の3年間で予想を下回った割合の中央値は35%であった。反対に、これらの資産のうち予測値を上回ったのは22%に過ぎず、上回った割合の中央値は46%であった(図5参照)。通常、取引時に買収企業の株価に反映される買い手側の共通認識とは対照的に、これらの予測は売り手側のアナリストの共通認識に基づいて導き出されたものであることを理解しておくことは重要であるが、実際には多くの主要買収資産が期待された価値を提供できていないことが多い。このような未達により、時として、これらの買収の戦略的正当性が弱まることになる。 

我々の分析から、買収資産の市場での成功に寄与する2つの主な特徴が明らかとなった。すなわち、主力となる適応だけを対象とした戦略的位置付けと、その作用機序という点でファースト・イン・クラスであることである。 

  • 主力となる適応の治療経路(例:第一選択治療)を対象とした早期開発段階の患者集団をターゲットとした資産は、一般に期待を上回っている。例えば、武田薬品のタクザイロは遺伝性血管性浮腫の予防的標準治療の常識を打ち破り、優先第一選択薬となった。同様に、BMSのReblozylは、次善の標準治療であった赤血球輸血に対する代替または補足の選択肢として、ベータサラセミアを対象とした貧血治療に対する新たなアプローチとなっている。
  • 革新性も成功の重要な決定要因である。新規のファースト・イン・クラスの作用機序を有する資産は、期待を上回ることが多い。その例として、NovartisのZolgensmaやRocheのEsbrietなどがある。いずれもバイオテクノロジー企業から取得したファースト・イン・クラスの主要資産であり、アナリストの予測を大幅に上回っている。これらの先駆的な資産はいずれも急速に普及し、当初、アナリストが過小評価していたレベルを上回り、結果的に、予想を超える採用レベルとなった。一方、既に飽和状態にある市場に参入する「後追い的な」資産は、牽引力を獲得して採用を増やすという点で、さらに重大な課題に直面している。 

臨床段階で取得した資産と取得時に既に市販されていた資産を比べたところ、意外にも、予測を下回った資産の割合に顕著な差はみられなかった。今なお開発段階にある資産の場合、規制当局の審査結果や製品のラベリングという点で不確定要素があるために、上市前の収益予測の精度が下がる結果となったと考えられる。

我々はさらに、主要買収資産の適応疾患と買収企業の製品で既に対応している治療領域との相関関係を分析し、確立された臨床や商用における習熟度が収益予測の精度や買収後の製品の全体的な業績に与える可能性のある影響を調べた。我々の分析では、買収企業のコア治療領域を、既に市販されている製品が少なくとも1つあることを証拠とし、商業的能力が確立された領域であるとともに、中期から後期の開発段階にある資産が少なくともあることを証拠とし、深い臨床知識が確立された領域と定義した。

この分析で評価したM&A取引のうち4分の3以上が、買収企業のコア治療領域をターゲットとする主要資産に焦点を当てたものである。一般に、買収企業のコア治療領域の範囲内でまとめられた主要資産の方が健 闘している。これらの資産のうち約50%が、一致した意見に基づく取引前の予測通りか、予測を上回っていたが、コア治療領域以外の隣接治療領域に相当する資産のうち63%が、取引前の期待を下回っていた。さらに、主要資産の実績が、一致した意見に基づく予測を上回っている場合、買収企業のコア治療領域を対象とした資産の方が、隣接治療領域の資産よりも期待を上回る幅が大きい傾向がある。このパターンは、主要買収資産の上市時期という点では当てはまらない。コア治療領域と隣接治療領域のいずれを対象とした資産でも、上市の時期には同様に遅れが生じていたためである。 

M&Aの可能性を最大限に引き出す 

直面している資金調達状況は厳しいにもかかわらず、バイオテクノロジー企業は引き続き生物医学イノベーションの最前線に立ち続けており、それらが有する臨床段階にあるパイプラインは、今なおこの業界全体の約3分の2に相当するものとなっている。 

バイオテクノロジー企業が有するこの広範なイノベーションプールにより、製薬企業にとっては魅力的なM&Aの有力候補の幅が大きく広がることになる。現時点で時価総額がそれぞれ10億ドルから 300億ドルの範囲にある上場バイオテクノロジー企業は130社を超えており、今年初めに行われたAmbrx、Harpoon、Calypsoからなる3社に対する最近の買収を除き、今後2年以内にそれらが買収のター ゲットとなる可能性がある。これらの企業は、既に市販されているか、さらに進んだ開発段階のいずれかにある、貴重な資産を保有している。それらの資産は、2025年末になるまでに主要な臨床マイルストーンを達成すると予想されていることから、戦略的買収という意味では興味を引くものとなっている。 

このようなM&Aの状況をうまく乗り切ることを目指しているバイオ医薬品企業の経営幹部にとっては、次の5つの戦略的優先事項に焦点を当てることが不可欠となる: 

  1. 明確なM&A目標の設定: 持続的な成長を確実に遂げるために、製薬企業は、R&Dパイプラインと既存のインライン製品との構成比を定期的に見直さなければならない。この見直しには、社内的なポートフォリオの優先順位付けや外部に対する戦略的買収なども含まれる。上層部は、事業開発チームを対象とし て、M&Aに対するニーズの規模、頻度、時期に関する明確な目標を設定しなければならない。目標の中では、買収の対象となる適応疾患の選択基準の確立、予想される収益への影響と買収時期の評価、取引に関わる資産の新規性の度合の評価に重点を置く必要がある。ガイドラインを用いることにより、M&Aの実務担当者が詳細な事業開発ロードマップを作成し、社内的な成長のギャップを埋める上で必要となる買収順序の概要を示すことができる。 

    B事業開発リーダーは、自身の行動が企業の掲げる広範な戦略的ビジョンと同期していることを常に確認する必要がある。このように整合させることで、デューデリジェンスのさらに進んだ段階で頻繁に起こる、取引の戦略的根拠の再評価という問題が避けられるのである。最初から明確かつ具体的な目標を設定 し、それに従うことにより、企業は戦略的に健全かつ効率的な方法でM&A活動を実施できるようになるため、結果的に取引が成功することになる。この戦略ではさらに、シームレスな買収による統合が促され、各取引から得られる価値が最適化されることになる。 

  2. 徹底した洞察により価値を向上させる:M&Aの世界で取引の交渉者にとって必要不可欠なことは、買収先候補を徹底的に評価することであり、特に買収後の最初の数年間は、予想収益の伸びや想定される上市時期に細心の注意を払わなければならない。投資家が期待するリターンと取引後の実績との間に差異が生じることが多いことから、この期間は極めて重要となる。 

    現実的な評価を確実に行うために、取引の交渉者は、市場に関する社内的な洞察と外部ベンチマークの両方を含む、包括的なアプローチを採用する必要がある。そのためには、価格設定やアクセス障壁、競合にみられる変化のパターン、成功のための事業投資要件といった要素を検討し、同程度の市場にある同様の資産の過去の業績を分析しなければならない。その際、大手製薬企業の持つ広範なネットワークや深く根ざした専門知識と、買収した資産を統合すると、収益が増加する可能性があることも認識する必要がある。我々の分析から、買収資産の多くが期待を下回っていたことが明らかになったが、制約のないインフラの恩恵が受けられる、大規模かつスケールの大きい商業組織の中であれば、質の高い資産の業績が好調となる傾向がある。 

    このレベルで徹底してバランスの取れた分析を実施することは、見通しが悪くリスクの高いM&A候補の優先順位を下げながら、有望な資産の業績を上げ、大きな価値を引き出す上で重要となる。 

  3. 関連性のない多様化が持つリスクの理解:製薬企業は、持続可能な成長を促すため、治療領域の微調整と拡大を絶えず試みている。収益源の多様化には利点もあるが、新たな治療領域や関連性のない治療領域に進出するM&Aのターゲット企業の価値の評価には、特有の課題がある。我々の分析では、買収企業が既に持っている事業に関する専門知識、現在ある営業チャネル、医療提供者との間で確立された関係 から遠ざかれば遠ざかるほど、買収資産の業績が低下する傾向があることが明らかになっている。したがって、取引リーダーは、ターゲット企業が扱っている疾患領域の最新の専門知識を有する外部顧問と連携する必要がある。これらの専門家からは、貴重な洞察が得られ、公正かつ正確な評価額を見積もることができるとともに、可能性があればごくわずかな相乗効果でも明らかにすることができる。 

    加えて、取引の交渉者は、統合後に買収資産の価値が低下する可能性を考慮しなければならない。特にターゲット企業の成功に不可欠であった被買収企業の主要な人材が退職したという状況下においては、これらの資産に期待していた成長の再調整が必要となる。このような状況下で包括的なリスク評価を行えば、より慎重な意思決定プロセスを実現できる。これは、新たな治療領域へと拡大することに伴うリスクと、多様化が持つ利点とを比較検討する上で役立つ。 

  4. 客観性を保ち、引き返すことを厭わない: 要求が厳しい取引評価の最終段階では、銀行家や法律顧問など、多様な利害関係者が関与することになるため、取引リーダーが正確性と客観性の両方を維持することが不可欠となる。取引の妥当性を示し、それを成立させるためには、誤解を招くような精度を用いたり、間違った精度を使用してしまったりするような落とし穴を回避する必要がある。 

    近年、買収に対する割増金が著しく増加している(我々の分析によると、2015年以前は平均59%であったが、2018年以降は94%に増加している)とはいえ、払いすぎを避けることは買収企業にとって重要で ある。可能性のある商業的な成長余地と大きな相乗効果を明らかにするという戦略的焦点と併せて、綿密かつ公平な評価が鍵となる。このアプローチを採用することにより、意思決定者は、自身の投資の選択が、買収コストが高値となる一般的な傾向に単に対応したものではなく、ターゲット企業が持つ真の潜在的価値の徹底的な理解に基づくものであることを保証できる。 

  5. 優れたM&A能力の育成: バイオ医薬品業界の経営幹部は、取引の発掘や評価への投資以外にも取り組む必要がある。合併後にオペレーショナルエクセレンスを達成する上での鍵である、取引による統合における卓越性を実現するには、リソースを大幅に増やし、プロセスを微調整していくことが重要である。上市に遅れが生じないようにし、合併後に起こる経営上の複雑性に巧みに対処するためには、買収による適切な統合が極めて需要となる。これには、M&Aプロセスに沿ったガバナンスや決定権の明確化、チーム間の効果的なコミュニケーション、潜在的な問題の早期発見や対処、両社間での文化やシステムのシームレスな融合の保証など、幅広い統合作業が含まれる。この作業を行うことにより、企業はM&A活動の効果を高めるだけでなく、各買収からもたらされる価値と成長機会も最大化できるのである。 

    競争が激化するM&Aの状況下では、取引経験の回数や規模が、買収企業となる可能性のある企業を差別化する主な要素となる。取引決定という点で一貫した実績があれば、M&Aにおける企業の実力が著しく強化される。たとえ2年に1件という控えめな取引ペースであっても、定期的に買収に関与すれば、その組織は系統立った連続的な買収を行う実力のある企業に発展し、進化する可能性がある。 

これらの5つの戦略的優先事項が順調に実施されると、M&Aの専門担当者はより効果的かつ効率的に取引を特定、評価、統合できるようになるため、市場における競争優位性も確保されることになる。安定した拡張性のあるM&A能力の開発に集中することにより、買収企業は買収プロセスを合理化できるだけでなく、各取引から最大の価値を確実に引き出せるようになる。 

本稿に対し多大なご協力をいただいたJonathan Fischer氏とL.E.K.の Information Resources Centerに著者から感謝の意を表するものとする。 

詳細については、lifesciences@lekinsights.comまでお問い合わせください。

L.E.K.Consultingは、L.E.K. Consulting LLC.の登録商標です。この文書に記載されているその他すべての製品およびブランドの所有権は、各所有者にあります。© 2024 L.E.K.Consulting LLC 

巻末注 
1参考としてVanEck PPH指数を用いた。今回の分析では、データの制約より、PfizerとSeagenとの合併とShireによるBaxaltaの買収については3年目を、ActavisによるForestの買収についてはすべての年を対象外とした。

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