Creating Opportunities and Avoiding Missteps in Biopharma Supply Chain Strategy
box of vaccines
Here are four key industry areas where timely action can help biopharma companies mitigate issues with their supply chain.
Volume XXVI, Issue 01 |

2024年はバイオ医薬品業界にとって過渡期となる。パンデミックから丸1年が経った今も市場は縮小し続けており、特許切れや最も好調なMedicare製品に対して、先頃、薬価に上限が設けられたために、各企業は近々直面するであろう収益の崖に対する準備を整えつつある。このような逆風にもかかわらず、ベンチャーキャピタルの資金調達はパンデミック前の水準を常に上回っている。パイプラインにある高度な治療法、創薬を対象とした生成型人工知能(AI)、これまでの営業力を強化するオムニチャネル・エンゲージメントなど、数多くのイノベーションが目前に迫ってきているのだ。このエグゼクティブインサイトでは、L.E.K. Consultingのバイオファーマ・プラクティスが、2024年に向けて状況を注視している5つの動向を取り上げる。 

1. バイオ医薬品市場の反落は資金調達とM&Aに引き続き影響する 

2024年を迎え、バイオテック企業は市場縮小との闘いを続けている。前年比で見ると資金調達チャネルは概ね安定しているように思われるが、パンデミック時の高値やパンデミック前のベースラインと比べると、その大半が大幅に低下しているのである(図1を参照)。資本コストは高止まりしている。大手バイオ医薬品企業は、魅力的な取引機会を模索しているが、例年と比べると明らかな好材料は少ない。以下に、L.E.K. Consultingが注目している資金調達とM&Aに関する最優先課題を挙げる:

  • バイオテック資本市場は2024年から大幅な反落期間に入りつつあるが、それがいつまで続くかは不透明である。評価額は大幅に下落している。S&P Biotech Index(XBI)では2021年のピークからの下落幅は55%を超えているが、より広く捉えたS&P 500(SPY)で見ると、15%超の上昇が認められる1。過去を振り返っても、バイオ医薬品業界が不況から回復するには、長い年月を要することが示唆されている。例えば、Nasdaq Biotechnology Indexは2001年に局所的なピークに達したが、続く4四半期の間に約60%下落し、回復するまでに10年近くかかった。短期的な回復を確実に見込めるわけでは決してないため、バイオ医薬品企業は、長期間の景気後退状況に備える必要がある2。 
  • 説得力のある臨床データを有するバイオテック企業は、2020~21年と比べると評価額が低いとはいえ、まだ資金調達できる可能性はある。ベンチャーキャピタルの年間資金調達額は堅調に推移しており、2023年にはパンデミック時の高値を大きく下回るものの、資金調達額はパンデミック前の安定した水準を上回っている3。それにもかかわらず、パンデミック後の資金調達過程を見ると、データに対する期待の高まりもあり、例年よりも完了までに時間がかかると言われている4。 

最近行われたKKRによるCatalio Capital Managementへの投資でも明らかな通り、未公開株式投資会社もベンチャー企業と提携してバイオテック分野への事前調査を次第に行うようになっているが、これがもう1つの民間資金源となっている5。2022年から2023年にかけて行われたバイオテック企業の新規株式公開の件数と額は、パンデミック前の水準を大幅に下回ったままであった6。投資家は臨床データに対して例年よりも高い期待を抱いているため、評価額は依然としてパンデミック時の高値を大きく下回っている7。高金利のために負債による資金調達の魅力が低下しているとはいえ、望ましい形の資金調達を利用できない企業は、代わりの資金源(例:公的資本による資金調達の中での民間投資、負債による資金調達、ロイヤリティの収益化)を見つける必要がある。最終的には、多くのバイオテック企業が、次の価値の変曲点をM&A市場に求めることになるかもしれない。 

  • 小規模なバイオテック企業の買収であれば条件が整っているが、現実味のある買収ターゲットはほとんどない。上位16社に入るバイオ医薬品企業が持つM&Aの実現能力は、2023年11月時点で合わせて5,000億ドルを超えている(一定の純負債対EBITDA比率を維持した場合)8。多くの事業者が、間近に迫った独占権の喪失やインフレ抑制法(IRA)が中期的な収益成長に与える影響を相殺するための取引決定に強い関心を持っているが、最近の買収の波を考えると、残された妥当なM&Aターゲットの数には限界がある。さらに、2020~21年と比べると、現在、魅力的なM&Aターゲットの数も少なくなっている。 
  • バイオ医薬品企業は、特許の崖やIRAが及ぼす影響を乗り切るために、結果的に規模を拡大することになる大規模なM&Aに目を向ける可能性がある。大手の製薬企業の多くが、今後数年間のうちに大幅な収益格差に直面することになる。上位15位までの製薬企業の最大手と最小手の時価総額の差は過去の基準よりも広がってきており、一部の製薬企業にとっては規模で競争することがますます困難になっている。したがって、こういった要因が、業界に再編の波を引き起こす可能性がある。 

これらの課題を踏まえ、その規模を問わずバイオ医薬品企業は今年、価値創造の次の段階への糸口となるよう、資金調達やM&Aについて創造的な戦略を模索する必要があると考えられる。 

2. 新薬価法の影響が引き続き徐々に明らかになっていく

IRAの継続的な導入、IRAに関連した製薬業界からの多数の訴訟、大統領選挙、薬剤給付管理者(PBM)改革に向けた勢いの強さが与える影響を注視していく中で、2024年は、薬価法が再び活気づく年となる可能性がある。2024年に注目すべき主要な薬価政策と法制化の最新情報を以下に記載する: 

  • Medicare薬価交渉の対象として最初に選ばれた10品目の最大公正価格(MFP)が2024年9月1日までに公表されると、業界は、薬価引き下げ幅についてより詳しいく知ることができる。MFPについて、IRAは現行価格に対して具体的な上限を規定しているが、価格の「下限」は定めていないため、Centers for Medicare & Medicaid Services(CMS)の裁量でさらに厳しい値引きが行われる可能性がある。CMSが規定を超える割引を交渉するオプションをどの程度行使するかを把握するため、業界の利害関係者は、第3四半期に最初に発表されるMFPに絶えず注目することになると予想される。MFPの価格設定の裏付けとするためにCMSが使用する具体的な根拠と分析に関する詳細をCMSが公開する予定は2025年3月までないが、主な原動力について得られた新たな知見の一部は、バイオ医薬品企業自体から2024年末までに入手できる可能性がある。 
  • 進行中の訴訟と大統領選挙も、IRAの今後の薬価規定の具体化に一役買うことになるかもしれない。複数の医薬品メーカーとPhRMAは、IRAに定められたMedicare薬価交渉規定の合憲性に異議を唱えて訴訟を起こしている。価格交渉が前例のない種類のものであることを考えると、これらの訴訟は最高裁による再審理を含め、複数レベルの司法審査や上訴に直面する可能性が非常に高い。2024年末までに最終的な司法解決に至る可能性は低く、MFPとなる薬価が発効するのは2026年であるため、薬価交渉の差し止め命令は当面出ないと予想される。 

    2024年の大統領選挙では、薬価とIRAが規定した薬価交渉の今後の法制化が重要な争点になる可能性が高い。大統領の職と上院がこのまま民主党の手にあり続ける限り、2024年にIRAに対する法改正が行われる可能性は低い。共和党は2022年のIRA成立に全会一致で反対票を投じたが、2025年に共和党が議会で主導権を握った場合は、薬価規定の一部またはすべての廃止を求めるかもしれない9。しかしながら、共和党の大統領候補最有力候補であるドナルド・トランプ氏は、薬価引き下げに対して強硬な姿勢を取っており、2016年の立候補時にはMedicare薬価交渉を支持していたため、たとえ共和党大統領であってもそのような廃止が可決されるかどうかはまだ分からない10,11。 

  • パイプラインを対象としたPBMに関する主な法律は、超党派の支持を得て透明性を推進している。薬価引き下げを狙いとした次の主要な政策優先事項はPBM改革であるが、この課題に関する長年の議論を経て、2023年には立法機運がゆるぎないものとなってきている。上下両院では、PBMに対する報酬について、それぞれに異なる程度の透明性に加え、スプレッド・プライシング、パススルー・リベート、薬剤に対する回収金に課す制限を求める複数の法案が提案されている。下院は既に「Lower Costs, More Transparency Act」と呼ばれる法案を可決しているが、この法案は上院での採決前に上院で提案された同様の法案の文言に基づいて修正される可能性がある。 

    大まかに言えば、スプレッド・プライシングが禁止されるか、および/またはPBMに対する報酬が交渉されたリベート幅から切り離されれば、法案はGross-to-Netバブルに下方圧力をかけることになると予想される。また、報酬の透明化が進めば、PBMのインセンティブと医療費削減の整合性がより高まるはずであるが、透明化の条件は、リベートやその他の割引を除いたすべての薬価を定期的に完全に公開する(下院法案)12というものから、制度提供者と保健福祉省に限定して定期的に報告する(上院のModernizing and Ensuring PBM Accountability Act)13というものまで、その内容はさまざまである。 

  • バイオ医薬品のリーダー企業は、米国以外に、EUの変化も視野に入れて計画を立て始める必要がある14EUnetHTA 21規則では、先端治療薬や癌治療薬の場合は2025年から、その他の医薬品については2030年までに、EU全域の共同臨床医療技術評価が義務化される。このように臨床評価が国レベルからEU全域レベルに移行すると、製薬企業にとっては短期的な負担となり、市場にアクセスするために追加的なリソースが必要となる。しかしながら、臨床評価の一元化が意味するところは、EU諸国との価格設定や償還交渉の早期開始であるため、長期的に見るとこの規制は好機となる可能性がある。 

3. AI変革と業務改善の初期効果が得られる可能性がある 

2024年には、AIの導入結果として、変革的な発展と段階的な/業務上の改善の両方がもたらされるはずである(図2を参照)。機械学習(ML)/ビッグデータに加え、トレーニングデータとコンテキストプロンプトに基づく新しいコンテンツの生成を含む最新のAIコンピューティングアプローチである生成AIは、いずれも創薬およびそれ以降の効率化の主な原動力となる。 

  • AI主導の創薬にある変革の可能性は、最初の臨床的有効性データの発表で試されるだろう。生成AIとMLは、可能性のある新薬候補の範囲を拡大し、有望ではない候補の排除を促し、臨床試験へと進む速度を早める上で役立つ。特にこの分野では、生成AIは現在のハイスループット創薬の演繹的推論と帰納的推論のサイクルを十分に補完し、早期導入に自然に適合する。新興のバイオテック企業にとって、この分野における進歩は特に重要である。こういった企業の価値は、初期の研究開発が行われている画期的治療薬が1つだけなのか、少数でも複数あるのかによって決まる。2024年には、InSilico Medicineによる特発性肺線維症を対象としたINS018_055に関する第II相データ15や、Relay Therapeuticsによる臓器横断的な治療薬であるlirafugratinib(RLY-4008)について、第II相臨床試験と規制上の最新情報16など、AIが創薬に大きな影響を与えた資産から得られた複数の臨床データを目にすることになるだろう。 
  • 創薬以外にも、バイオ医薬品企業は、例えば臨床試験デザインや参加者募集の改善、製造とサプライチェーンのプロセスの合理化、競合情報分析の簡素化、営業/マーケティング資料の作成や調整の強化など、AIを通じて段階的な改善を推進していく方法を模索することになる。Bristol Myers Squibb(BMS)は既にGPT-4を臨床試験実施計画書の設計に利用しており、武田薬品は患者モニタリングを対象としたAI/MLの応用を検討している17。今年中にもバイオ医薬品業界の中でのさらなる業務向上やパイロットプログラムが発表される可能性が高い。バイオ医薬品業界において生成AIが業務に影響を与えるという証拠を見極める難易度は高いが、効率に影響が及べば、組織全体にわたり段階的な改善が促されることになる。 
  • 研究開発以外にも、AIを早期に実装することにより、デジタル戦略やデータ管理プロセス/システムにも光が当たる可能性が高い。初期の大規模言語モデルが特定の日付までの情報しか提供できないことからも明らかな通り、生成AIはトレーニングデータと同程度にしか役に立たない。最も強力な企業AIシステムの場合、パブリックドメインのインターネットデータと社内/専有データの両方に対する包括的なアクセスが可能となる。Modernaは、ChatGPTの公開からわずか数週間後に、社内データベースにアクセスできる大規模言語モデルを社内で実装した、最先端を行く企業のうちの1社である18。2024年には、AIの有用性を試すための社内ツールやプログラムについての、同様の発表がさらに多くなされると予想される。バイオ医薬品企業側にAIを効果的に実装する準備が整っているかどうかは、自社が持つ独自データがどれだけ豊富でアクセスしやすいかにかかっている。 

4. 新しいテクノロジーは「digital too」アプローチで顧客エンゲージメントを進化させる 

近年、民間企業のリーダーはデジタルツールやデータに多額の投資を行っているが、2024年の焦点は、チームのスキルアップとこれらの投資を最大限に活用することにある。バーチャルなアプローチは今後も続くが、営業担当者は対面でのやり取りに戻っており、2023年1月から9月までのグローバル・チャネル・ミックスの78%をそういったやり取りが占めている19。上市の初期支援、新しいデータの発表、ライフサイクルの更新など、重要なやり取りを行う場合は、対面でのエンゲージメントが引き続き重要となるだろう。このような動向は、バイオ医薬品業界の顧客エンゲージメントモデルに起こる次の進化の特徴が、「digital first」戦略ではなく「digital too」戦略寄りであることを示唆している。バイオ医薬品業界のエンゲージメントモデルにみられる継続的なデジタル進化は、次の3つの分野で最も明らかに認められる: 

  • 今の営業担当者はデジタルに精通していなければならないし、顧客の好みに基づいて物理的チャネルと仮想チャネルにわたりエンゲージメントを調整できなければならない。営業担当者の役割は進化しつつあり、職責としてデジタルの専門知識、最適なエンゲージメント・チャネルを見極める力、データと分析に基づいて個々に合わせた対面でのやり取りがますます求められるようになっている。営業担当者は、対面で得た手がかり、利用可能なデータの評価、SalesforceやVeevaなどの意思決定ツールに基づき、現場でのアプローチを適合させていかなければならない。 

    先見性のある企業は、医師やその他の主要顧客のデジタルプロファイルを既に作成している。顧客に十分な価値を提供し、顧客の好みと適合していないマスマーケティングモデルでの過剰な支出を避けるため、他の企業もすぐにそういった企業に追随する必要がある。このようなスキルアップの必要性は、代表的なフランチャイズに属する大手バイオ医薬品企業に限ったことではない。希少疾病を対象としている大手バイオテック企業では、営業担当者の表現型開発と採用活動にデジタルチャネルの習熟を組み込んでいる。今後のトレーニングモジュールには、ネクストベストアクションと、顧客体験を形作る自己生成データの中で営業担当者が果たす役割の両方が含まれる予定である。 

  • パーソナライズされたマーケティングやその他の新しいテクノロジーにより、ブランドやコンテンツ・プランニングのサイクルタイムが短縮できる。社内チームのデータや分析力を向上させ、シングルカスタマービュー(SCV)に焦点を当てることで、この速度向上が可能となる。SCVでは、優先トピック、必要なコンテキスト、優先チャネルに関する個々の医師のシグナルに従ってメッセージがカスタマイズされる。ネクストベストアクション・マーケティング(SCVデータと予測分析を用いて、顧客エンゲージメントと最終的な売上を促進するためのネクストベストアクションを決定する)、ゼロパーティデータと分析(顧客が直接かつ自発的に共有する情報の分析)、生成AIなどの技術により、民間企業は顧客の声に耳を傾け、ターゲットを絞ったコミュニケーションが提供できるようになる。 

    Novartisは、マーケティング意思決定エンジンを強化するためにSCVを採用した製薬企業リーダーの中の1社であり、微妙に異なるターゲットオーディエンスのプロファイルを作成し、モジュール資産に基づくチャネル別のマーケティングを提供している20。民間企業のリーダーは、これらのさまざまな新しいツールやマーケティング戦略と、分散型の顧客ベースや営業部隊とを慎重に統合していく必要がある。

  • さらにターゲットを絞った営業/マーケティングを導入することで、過去のマスマーケティングアプローチから脱却し、プレシジョンマーケティングの時代に移行できるため、企業としては支出の効率化が可能となる。SCVが顧客アーキタイプにまとめられるにつれ、よりニーズに合ったメッセージやチャネルを通じて処方者や消費者のターゲットを絞ることができる。このようなアプローチは、例えば従来からあるTVベースの広告のように、受け手が膨大な数に上る一方で対象者の割合が低いものと比べると、コストの低い代替手段となると考えられる。 

このような機会を活用するため、企業は営業活動のデジタル化を進めていく上で組織の準備が整っているかどうかを評価しなければならない。これに必要となる主な能力として以下が挙げられる: 

  • 大規模なデータセットにアクセスし、クリーンアップし、統合し、結論を引き出すための、事業を見通す力や分析機能の向上 
  • 医療・法律・規制の審査プロセスの最適化。これには迅速化と多くの内容を管理できる能力が必要となる。 
  • 現場での意思決定を支援するツールの導入

顧客体験、コンテンツのカスタマイズ、ネクストベストアクションモデルに多額の投資を行ってきた企業は、人材/プロセス軸に沿った社内能力開発の「バージョン2.0」に移行しつつある。代表的なバイオ医薬品企業は、厳格なセンター・オブ・エクセレンス・モデルから脱却し、既存のデジタル・プラットフォーム能力を活用するため、部門横断的な開発/提供チームの内製化を開始している。アジャイルチームのTest-and-Learnパイロットの実施による学習は、貴重なインラインブランド業務を中断することなく組織を変革する最も効果的な方法であることが証明されている。「digital too」という考え方を取り入れることにより、バイオ医薬品企業とその顧客対応チームは、適切なタイミングで好みのチャネルを通じて、関心のあるトピックについて顧客の意見に対してさらに効果的に耳を傾け、顧客に関与することができる。 

5. 先進的な治療法のパイプラインは重要な臨床/営業マイルストーンに直面することになる 

先進的な治療法のパイプラインが拡大し、上市される治療法の数が増えるにつれて、多くの重要な臨床/営業上の進展があると予想される。 

  • オンコロジー領域やそれ以外の領域でも細胞治療の進歩が目前に迫ってきている。固形腫瘍の場合、今年中に、TCR-T(T細胞受容体改変)21とNK(ナチュラルキラー)細胞22による主な治療法について、第II相のデータが発表される。また、CD19を標的とするCAR-T療法に不応の大細胞型B細胞リンパ腫(LBCL)患者を対象としたCD22タンパク質の試験が現在行われている23。 

    同種異系細胞の分野に関しては、同種造血幹細胞移植後のT細胞免疫を回復させるAllovirによるposoleucel 24の第III相からトップラインデータが得られると期待されており、ImugeneとAllogeneの両社は、CAR-T資産によりLBCLを対象とした登録試験を開始すると予想される25,26。免疫疾患領域では、Cabaletta Bio(上半期に第I/II相のトップラインデータが得られる見込み)、Novartis(下半期に第II相データが更新される)に加え、BMSなどその他の企業からも、自己免疫疾患を対象としたCAR-Tの成績に関するデータがさらに発表される可能性が高いとみられ、この領域では30社以上が開発を進めている27。しかしながら、特に免疫疾患領域の場合、CD19またはB細胞成熟抗原(BCMA)CAR-T注入後の続発性T細胞悪性腫瘍に関する予備報告の頻度によっては、この治療法のリスク/ベネフィットプロファイルの評価の妨げとなることがある28。自家CAR-T療法後に続発性悪性腫瘍が発生する可能性があるため、ランダム挿入の少ない新技術が必要であることが浮き彫りになっている。 

  • 免疫疾患領域のような新しい治療領域への適応拡大の前に、細胞治療の製造と供給にあるボトルネックが今なお重大な問題として残っている。現患者は、アフェレーシス後、集中センターで自家CAR-Tの製造が開始されるまで最長で3週間待たなければならず、その後、製品がリリースされるまでさらに2~4週間かかる29。LonzaのCocoonのような完全閉鎖型自動化システム、CellaresのCell Shuttleのような統合型製造/クリーンルームソリューション、Umoja BiopharmaやOrna Therapeuticsその他が研究しているin vivo CAR-T製造など、自己由来の治療法には近い将来、製造上の改善がなされる可能性がある。 
  • 優れた科学的革新であるにもかかわらず、遺伝子治療開発者は、科学と商業的成功を結びつけることが可能であることを示す必要がある。今までのところ、この治療法は、市場の期待に追いつこうと悪戦苦闘している。米国市場にはウイルスベクターベースの遺伝子治療薬が9つあるが、世界全体での年間売上高が5億ドルを超えた治療薬は1つ(Zolgensma)だけである30。これまでに得られた臨床データでは、遺伝子治療が薬物を使用しないまま持続的な疾患寛解をもたらすという期待は十分に検証されておらず、脊髄性筋萎縮症患者の約3分の1がZolgensmaの投与が終了した後に他の治療を継続して受けている31。商業的な普及には早くから課題があったにもかかわらず、遺伝子治療のパイプラインは拡大すると予想されている。そのマイルストーンには、輸血依存性βサラセミア[Vertex/CRISPR TherapeuticsのExa-cel Prescription Drug User Fee Act (PDUFA)については3月30日]32、血友病A(Pfizer/Sangamo Therapeuticsのgiroctocogene fitelparvovecによる第III相データの発表については2024年中旬)33、血友病B(Pfizer/Sparkのfidanacogene elaparvovecのPDUFA期限については第2四半期)34などがある。また、最近上市された遺伝子治療薬(例:lovo-cel、Roctavian、Hemgenix、Vyjuvek、Elevidys)については、安定した実臨床データと商業的な普及によって薬価の高さの根拠を示すことが重要である。 
  • その他大いに期待されている進歩の中には、遺伝子編集、オンコロジー領域を対象としたmRNA、抗体薬物複合体(ADC)についてのマイルストーン達成がある。in vivo遺伝子編集の分野では、Intelliaがトランスサイレチンアミロイドーシス治療薬であるNTLA-2001の第III相臨床試験を開始した36のに続き、第3四半期には遺伝性血管性浮腫を対象としたNTLA-2002の第II相臨床試験を開始する35と予想される。オンコロジー領域のmRNAについては、ModernaとMerckが、高リスク黒色腫の治療薬としてキイトルーダと併用した個別化mRNAがんワクチンV940について、臨床の初期段階で達成された成功を進行中の第III相試験でさらに発展させ続けている37。最後に、Merckと第一三共が最近締結した55億~220億ドルのADCに関する契約38に加え、HER2発現汎腫瘍を適応としたアストラゼネカ/第一三共のEnhertu 39と、2023年に進行膀胱癌を対象としてキイトルーダと併用したアステラス製薬/SeagenによるPadcev 40に関して、昨年、良好な試験データが発表されたことから、ADCに対してこれまでにもあった関心が再び取り上げられる可能性が高い。この勢いは、2024年にADC/チェックポイント阻害薬の取引決定の波を促す可能性があるが、企業はファースト・イン・クラス/ファースト・イン・適応症の可能性という機会を徹底的に詳しく調べる必要がある。最後に、Eli LillyによるPoint Biopharmaの14億ドル規模の買収や、BioNTechによるBiotheusとの最高10億ドル相当の取引など、2023年に放射性医薬品と二重特異性抗体の両分野で、多額の投資が行われた後の、新たな展開が期待できる41,42。 

本号のエグゼクティブインサイトは、L.E.K. バイオファーマ・プラクティスが作成したものである。作成の際に支援を得たJenny MackeyとJeff Pikeには特に感謝の意を表する。 

詳細については、lifesciences@lekinsights.comまでお問い合わせください。

L.E.K. ConsultingはL.E.K. Consulting LLC.の登録商標です。この文書に記載されているその他すべての製品およびブランドの所有権は、各所有者にあります。© 2024 L.E.K. Consulting LLC 

巻末注 
1XBI価格がピークに達した日(2021年2月8日)と比較した2023年11月30日現在。
2Lek.com, “Cash Preservation in the Biopharmaceutical Industry: Navigating Uncertainty.”
3Jefferies, “October Biotech Funding.”
4Biopharma Dive, “Lessons from a biotech downturn: Funding challenges, an IPO dry spell and what to expect in 2024.” 
5New York Times, “KKR Buys Minority Stake in Life Sciences Investor Catalio Capital.”
6Biopharma Dive, “After a record run, fewer biotechs are going public. Here’s how they’re performing.”
7Biospace, “5 Life Sciences IPOs in 2023 — and the Future Forecast.”
8Stifel.
9NY Times, “Biden Makes Lower Drug Prices a Centerpiece of His 2024 Campaign.”
10インフレ抑制法の薬価規定の廃止に対する他の共和党大統領候補の意見はまだ十分に明らかになっていない。
11AP通信, “Trump makes late-term bid to lower prescription drug costs.” 
12Congress.gov,  “HR  5378.” 
13Congress.gov, “Modernizing and Ensuring PBM Accountability Act.”
14Lek.com, “EUnetHTA 21 — Transition to EU-wide HTAs: Implications for Pharma.” 
15CNBC, “The first fully A.I.-generated drug enters clinical trials in human patients.”
16Relay Therapeutics, “Corporate Presentation."
17Bio IT World, “Big Pharma, Moderna on An AI-Empowered Era of Drug Discovery.” 
18Bio IT World. “Big Pharma, Moderna on An AI-Empowered Era of Drug Discovery.”
19Veeva, “Veeva Pulse Field Trends Report.”
20Tealium, “How to Create Real-Time, Personalized Experiences in Pharma.”
21Barclays, “3Q23: Afami-cel BLA Submission on Track for 4Q23; Lete-cel Program Update in Early 2024.” 
22プレスリリース,“Affimed Announces IND Clearance for a Phase 2 Clinical Trial Investigating AFM13 and AB-101 Combination Therapy.” 
23ClinicalTrials.gov, “A Phase 2 Study of CRG-022 in Patients With Relapsed/Refractory Large B-cell Lymphoma.”
24プレスリリース, “AlloVir Announces Plans to Complete Enrollment in Three Phase 3 Posoleucel Studies in 2023.”
25Pharmaceutical Technology, “Imugene licenses potential first-to-market allogeneic CAR T for blood cancers.”
26プレスリリース, “Allogene Therapeutics Reports Fourth Quarter and Full Year 2022 Financial Results and Provides Business Update.” 
27William Blair, “CELLect Horizons: The Hammer Finds a Bigger Nail: Cell Therapy for Autoimmune Disorders.” 
28Food and Drug Administration, “FDA Investigating Serious Risk of T-cell Malignancy Following BCMA-Directed or CD19-Directed Autologous Chimeric Antigen Receptor (CAR) T cell Immunotherapies.” 
29Manan Shah et al., “Promises and challenges of a decentralized CAR T-cell manufacturing model.”
30EvaluatePharma 
31ロイター, “Insight: What happens when a $2 million gene therapy is not enough.”
32プレスリリース, “CRISPR Therapeutics Announces Completion of FDA Advisory Committee Meeting for Exagamglogene Autotemcel (exa-cel) for Severe Sickle Cell Disease.”
33プレスリリース,“Sangamo Therapeutics Reports Recent Business Highlights and Second Quarter 2023 Financial Results.”
34プレスリリース,“FDA Accepts Pfizer’s Application for Hemophilia B Gene Therapy Fidanacogene Elaparvovec.”
35プレスリリース,“Intellia Therapeutics Announces Second Quarter 2023 Financial Results and Highlights Recent Company Progress.”
36プレスリリース,“Intellia Therapeutics Announces FDA Clearance of Investigational New Drug (IND) Application to Initiate a Pivotal Phase 3 Trial of NTLA-2001 for the Treatment of Transthyretin (ATTR) Amyloidosis with Cardiomyopathy.”
37プレスリリース, “Merck and Moderna Initiate Phase 3 Study Evaluating V940 (mRNA-4157) in Combination with KEYTRUDA® (pembrolizumab) for Adjuvant Treatment of Patients with Resected High-Risk (Stage IIB-IV) Melanoma.”
38ロイター, “Merck signs $5.5 billion deal with Daiichi for cancer therapy development.”
39Fierce Pharma, “AZ, Daiichi’s Enhertu posts trial win in numerous cancer types. Is a tumor-agnostic approval next?
40プレスリリース,“Groundbreaking EV-302 Trial Significantly Extends Overall Survival and Progression-Free Survival in Patients Treated with PADCEV® (enfortumab vedotin-ejfv) and KEYTRUDA® (pembrolizumab) in First-Line Advanced Bladder Cancer.” 
41プレスリリース,“Lilly to Acquire POINT Biopharma to Expand Oncology Capabilities into Next-Generation Radioligand Therapies.”
42プレスリリース,“Biotheus Enters Into Strategic Partnership with BioNTech to Develop and Commercialize Bispecific Antibody Candidate Targeting PD-L1 and VEGF in Multiple Solid Tumor Indications.”

当社の最新の見解についてのご質問をお持ちですか?

関連するインサイト