Executive Insights

イノベーションに備える:ライフサイエンス分野における人工知能の成熟度のフレームワーク

August 2, 2024

Key takeaways

L.E.K. Consulting has developed an artificial intelligence (AI) maturity framework that can be deployed across use cases to assess the fit of AI, data availability, the strength of existing capabilities, the market environment and the extent of impact demonstrated.

L.E.K. applies this framework to use cases within drug discovery — namely drug repurposing, drug target identification, small molecule drug design and antibody drug design — to assess the level of AI maturity.

While some use cases (e.g. repurposing drug candidates) are more mature and have started demonstrating impact, barriers such as data availability are still being overcome in other use cases.

Advancements in technology, such as generative AI, are expected to lower barriers and accelerate the adoption of AI in life sciences.

人工知能は、大規模なデータセットを処理し、パターンを特定し、予測するという驚くべき能力を備え、ライフサイエンス業界に変革をもたらす原動力として浮上してきた。創薬を加速化し、臨床試験を最適化し、患者ケアを向上させるため、AIがますます使われるようになってきている。これらの進展は、イノベーションの変革や命を救う治療法の設計だけでなく、ライフサイエンス企業の戦略的意思決定にも影響を与える可能性がある。

このエグゼクティブインサイトでは、創薬を対象とした様々なユースケースにおけるAIの機能や利用の成熟度を評価するためのフレームワークについて説明する。

AI成熟度の評価を目的としたフレームワーク

L.E.K.では、AIソリューションの開発・導入段階を評価する包括的なフレームワークを考案し、AIイニシアチブの準備状況や可能性について、組織が的確な洞察を得られるようにした。そのフレームワークでは5つの重要な要素を検討し(図1を参照)、AI成熟度の評価に用いた(図2を参照)。

  1. 適切な課題: AIソリューションが従来のアプローチよりも適しているか、およびその利点を判断する
  2. 適切なデータ: 現在のデータの可用性、アクセス性、品質を評価する
  3. 適切な機能: 効果的に実施するために必要となる、利用可能なツール、プラットフォーム、専門知識を調査する
  4. 適切な市場構成: 積極的に取り組んでいる企業の数と製薬企業が提携にどの程度興味を持っているかを検討する
  5. 実証済みの効果: 斬新な洞察を生み出すAIの能力を評価し、これまでに達成した具体的な成功例を特定する

図1

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The AI use case framework

図1

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The AI use case framework

図2

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Different levels of AI maturity and ranges

図2

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Different levels of AI maturity and ranges

創薬のユースケースにおけるAIの評価

AI成熟度を評価するためのフレームワークの使用例を説明するにあたり、創薬におけるAIのユースケースを4つ検討した(図3を参照)。

図3

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Four use cases for AI in drug discovery in the life sciences

図3

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Four use cases for AI in drug discovery in the life sciences

1. ドラッグ・リポジショニング

これまでのところ、創薬の観点からAIの力が最も発揮されるのはおそらく、ドラッグ・リポジショニングの場面である。つまりAIを使うことで、既存の分子に対する別の適応症を迅速に同定できるのである。現在、250社を超える企業がAIを使ってドラッグ・リポジショニングに取り組んでいる。COVID-19により、この迅速かつ柔軟なアプローチを創薬に適用するという、またとない機会が得られることになった。

バリシチニブは関節リウマチを適応症としたヤヌスキナーゼ阻害薬であるが、BenevolentAIでは、同社のナレッジグラフプラットフォームを用いてCOVID-19に対する治療薬候補としてこれを同定した。2020年、入院患者を対象としたCOVID-19治療薬として、米国食品医薬品局(FDA)によりバリシチニブの緊急使用許可が認められた。その後、4つの無作為化臨床試験の結果に基づき、2022年には全面的に承認されることとなった。

AIによるドラッグ・リポジショニングで特定された化合物の多くは、現在も臨床試験で評価が行われている。データが多様化しアクセス性の向上に伴い、データの可用性と品質は今後改善すると予想されており、この分野の取り組みはさらに活発化する見込みである。

2. 創薬標的の同定

AI技術により、分子疾患モデルを迅速に構築できるとともに、従来の方法よりも効率的に新薬の開発につながるような標的やバイオマーカーを同定できるようになった。複数の非構造化データセットの統合は困難であるものの、膨大な量の生物医学データが利用可能となっている。AIを使用すれば、学術論文やオミクスデータベースに加え、画像や実臨床下の患者データなど、非構造化データセットから所見を抽出・分析することができる。ナレッジグラフを使えば、分子間にある新たな関係が確認できる。ただし、基礎となるデータセットの標準化やラベリングの質によって、これらのアプローチの能力には限界がある。

創薬標的の同定という点でAIを使用した初期のプログラムでは、発見と前臨床開発のステージを経て、新たな疾患-標的の関連性をAIが同定した20種類以上の薬が、第I相、第II相試験へと進んでいる。企業がデータセットを拡大し、その結果をAIアルゴリズムにフィードバックしていくにつれ、新たな疾患-標的の関連性を有する、あるいはまったく新しい標的を有する薬が登場する数も増えていくと予想される。

3. 低分子薬の設計

利用可能な化学構造データを使用することで、AIは複雑な化学特性をシミュレートしたり、従来の方法よりもはるかに迅速かつ正確に、薬物の構造を設計したりできる。このユースケースの場合、企業はAIを使用して既存のケミカルライブラリをスクリーニングしたり、新規の化学物質を設計したりできる。このユースケースでは、基礎となるデータセットの可用性と使いやすさが引き続き大きな課題となっている。数十億の化合物からなる化学空間全体と比べれば、トレーニングセットは比較的小規模であるからだ。

加えて、標的クラスが違えばデータ可用性にも差が出てくる。つまり、キナーゼとGタンパク質共役受容体は最もよく研究されているが、これにより汎用性の高いモデルの開発や結果として得られる創薬候補の新規性に限界が生じるのである。

低分子の場合、個々のAI駆動型ツールが既に医薬品設計プロセスに不可欠な要素となっており、より大規模な予測ソリューションの開発が反復的に行われている。現時点では、AIを用いて設計された抗体よりもAIを用いて設計された低分子の方がはるかに多い。ExscientiaやInsilico Medicineといった企業による臨床プログラムは、AIの設計に基づく低分子薬の第1波の例であり、現在第II相試験が実施されている。その結果が、このユースケースの成熟度と将来性を最初に物語ることになる可能性が高い。

4. 抗体医薬品の設計

既存の構造の最適化と新規の候補薬の設計のいずれの場合でも、AIを用いたユースケースとして抗体設計の数は増加している。現在までに、臨床使用にまで至ったAIの設計に基づく抗体医薬品は殆どない。低分子薬の設計と比較してこれらの分子はより複雑であるため、独自の課題が存在する。例えば、より大規模なモデルを実行するのに必要となる計算能力などである。抗体設計のAIモデルには、抗体配列や抗体-抗原ペアのデータセットの可用性による限界もある。さらに、トレーニングデータの大部分が従来の抗体設計アプローチで使用したものと同一のライブラリに由来しているため、特異性と親和性のバランス調整など、従来からある課題の多くがそのまま残されている。

抗体医薬品の設計を目的としたAIに注力する研究者や企業からなるエコシステムは成長している。過去1年の間にも、大手製薬企業が社内ケイパビリティの強化や、スタートアップ・大手テック企業との提携を立て続けに発表している。

最近では、Xaira Therapeuticsが10億米ドルを超える資金を調達した。その計画では、タンパク質や抗体の設計を目的とした有力な拡散モデルの設計経験がある研究者を、ゲノミクスおよびプロテオミクスグループとともに採用し、de novo抗体に焦点を当てた開発に取り組むことになっている。AIプラットフォームと製薬企業との継続的な連携に加え、標準化されたオープンソースデータの増加により、このユースケースの成熟度が高まることが予想される。

見通し:ユースケース全体におけるAIの成熟度

ライフサイエンス分野におけるAIの成熟度の見通しはそれぞれ異なり、ユースケースによってばらつきがある(図4を参照)。ドラッグ・リポジショニングや創薬標的の同定といったアプリケーションでは大幅な進歩がみられるものの、抗体医薬品の設計などでは依然として比較的初期段階にあると考えられる。

図4

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AI maturity across highlighted drug discovery use cases

図4

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AI maturity across highlighted drug discovery use cases

ライフサイエンス分野のAIについて言えば、ここ数年間で最も大きく発展したものの1つが生成AIである。新規の分子構造やその他の複雑なデータを自律的に生成できるようになることで、従来からある予測型AIシステムを超えて、イノベーションやコスト削減が加速化する可能性がある。2023年6月、特発性肺線維症を適応症としたInsilico Medicineによる低分子薬(INS018_055)は、生成AIが全面的に発見・設計した最初の薬となり、第II相臨床試験に進むこととなった。Insilico Medicineは前臨床開発を完了したが、それにかかったコストは通常コストの約10%に過ぎず、所要時間も従来の方法で必要となる時間の半分以下であった。

データ可用性とアルゴリズムの最適化という点では課題があるものの、イノベーションと提携という取り組みが、今後もさらに発展を後押ししていくことになるだろう。以上のような進歩が定着し、ライフサイエンス分野のエコシステムにAIがさらに統合されていくにつれ、AIの成熟度が大幅に変化し、幅広いユースケース全体にわたり課題解決能力や達成可能な成果という点で新たな可能性が生まれると、我々は期待している。

L.E.K. Consultingにできること

創薬の加速化、臨床試験の最適化、患者ケアの向上を目的としたAIの使用がますます増えていく中、L.E.K.が作成したAI成熟度のフレームワークを用いてAIソリューションの開発・導入段階を評価することで、AIイニシアチブの準備状況や可能性について、的確な洞察を組織が得られるようになる。さらに広く捉えるならば、ビジネスモデルの選択、BD/M&A、評価、組織設計と規模拡大、さらには重要な戦略的選択肢といった点から、L.E.K.はAI企業を支援できる。

詳細を知りたい/さらに検討したい場合は、当社までご連絡ください。

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