Executive Insights

がん治療用コンパニオン診断薬の新規立ち上げ:製薬企業が取るべき7つの戦略

April 17, 2025

Key takeaways

Biopharma companies should integrate companion diagnostics early by adopting an opt-out approach and planning in preclinical stages.

Failing to align diagnostic and therapeutic timelines can lead to lost revenue, slower adoption and reduced market impact.

Effective launches require navigating unique operational hurdles, building distinct Dx strategies and leveraging the right partners.

To succeed, companies must invest in internal Dx expertise, align cross-functional teams and plan proactively for long-term diagnostic evolution.

近年、早期遺伝子スクリーニング、標的療法、そしてその他の精密医療(Precision Medicine)の発展により、がん患者の治療は大きく変革され、治療成績も大幅に向上しています。これらの進歩は、製薬分野への投資拡大を後押しする大きな価値創造にもつながっています。精密医療は、バイオマーカー戦略を活用することで、研究開発の効率化や選択肢の拡大、規制当局への申請支援、小規模で生産性の高い臨床試験の実現を可能にし、治療薬の開発・商業化・差別化を成功へ導きます。しかし、がん領域において精密医療治療薬で商業的成功を収めるには、適格患者を特定し、治療継続の判断に必要となるコンパニオン診断薬(CDx)を効果的に導入することが不可欠です。

過去10年間、バイオマーカーを活用したオンコロジー領域の臨床試験の割合は、米国や中国の厳しいマクロ経済環境の影響でパンデミック後に一時的な減少を見せた時期を除き、全体の試験数の増加とほぼ並行して着実に拡大してきました。2024年には、オンコロジー領域の臨床試験全体の約4分の3でバイオマーカーが使用されています(図1参照)。

図1

画像
Biomarker use in oncology trials, by year (2015-24)

図1

画像
Biomarker use in oncology trials, by year (2015-24)

臨床試験におけるバイオマーカー検査の活用拡大は、予想どおり製品の上市動向にも影響を及ぼしています。米国FDAは、2020年以降、毎年7~10件のCDxを伴うオンコロジー領域の治療薬を承認しています。さらに、従来型のバイオマーカーに加え、新規バイオマーカーへの関心が一段と高まっています(図2参照)。

図2

FDA承認のCDx付き治療薬 (1997-2024)

画像
FDA-approved therapeutics with CDx, including novel oncological therapies (1997-2024)

図2

FDA承認のCDx付き治療薬 (1997-2024)

画像
FDA-approved therapeutics with CDx, including novel oncological therapies (1997-2024)

診断薬の上市には多くの利点がある一方で、解決すべき複雑な課題も数多く存在します。そのため、治療薬との連携を密にしながら、新規CDxの発売準備を進めることが極めて重要です。L.E.K.コンサルティングは、製薬企業と協力してオンコロジー領域の治療薬向けの新規CDxを上市する過程で得られた知見を基に、共有すべき7つの重要な戦略を明らかにしています。

1.    「オプトアウト」の考え方を採用する

精密医療分野のリーダー企業は、「オプトアウト方式」を採用しています。新規のオンコロジー領域プログラムは全て診断薬コンポーネントから開始し、開発ライフサイクル全体を通じてニーズを継続的に評価・計画しています。このアプローチにより、精密医療リーダー企業は確立された診断薬リソースと能力を通じて、診断薬と治療薬の開発を効果的に統合しています。汎用的な治療薬の開発を追求することも可能ですが、その場合は臨床的エビデンスに基づいた経営層の積極的な意思決定が求められます。

一方で、「オプトイン」の考え方、すなわち「あらゆる患者を受け入れるアプローチが機能し、バイオマーカー開発は後から追随する」という前提に基づく戦略は、企業の診断薬開発能力やプロセス構築力を制限する傾向があります。特に、診断薬チームと治療薬チームの早期かつ継続的な連携を必要とする医薬品開発プログラムでは、不利に働く場合があります。その一例として、2009年に米FDAは、競合他社のデータに基づき、リリー社のEGFR阻害剤「アービタックス」の適応をKRAS野生型の大腸がん患者(全体の約60%)に限定しました。この決定により、米国市場での採用が停滞し、その後10年間で累積収益に数億ドル程度の影響が生じました(図3参照)。

図3

ケーススタディー: 転移性大腸直腸がん(mCRC)でのErbitux売上

画像
Case study: Erbitux in mCRC

図3

ケーススタディー: 転移性大腸直腸がん(mCRC)でのErbitux売上

画像
Case study: Erbitux in mCRC

さらに、過去の傾向から見ると、バイオマーカーを活用した医薬品の上市が1年遅れるだけで、上市後5年間の累積収益が30~35%減少する可能性があるとされます(図4参照)。

図4

オンコロジー領域の精密医療の発売遅延による収益損失

画像
Revenue loss from launch delays in PM technology

図4

オンコロジー領域の精密医療の発売遅延による収益損失

画像
Revenue loss from launch delays in PM technology

精密医療分野のリーダー企業は、この「オプトアウト」の考え方を組織的に体系化しています。開発チームは初期段階から診断薬のニーズを考慮し、プロセス全体を通じて継続的に見直すことが求められま す。具体的には、包括的ゲノムプロファイリング(Comprehensive genomic profiling: CGP)によるバイオマーカー探索、複数の生体サンプルの保存、反応予測因子の特定に向けた事後分析、耐性メカニズムの追跡など、継続的な最適化を行っています。

また、精密医療分野のリーダー企業は治療領域や企業レベルで、明確なリーダーシップを発揮し、機能 やプログラムを統合しながら、各プロジェクトへ専念を促す形で組織を編成しています。戦略的な診断薬計画をプログラム全体に組み込むことで、先を見据えた議論や協働を促進し、組織全体で知見とリソースを共有することができます。これにより、効率性と組織的な学習が強化され、持続的な競争優位の確立につながります。

2.    臨床前開発段階からCDx導入に向けた計画を開始する

診断薬の成功には、バリューチェーン全体にわたる多機能的なサポート体制が不可欠です。そのため、製薬企業は前臨床段階という早期の段階から、CDxの導入計画を開始する必要があります。診断薬の開発は治療薬の開発と並行して進められ、ローンチ準備に関する主要な活動は、治療薬と診断薬それぞれのマイルストーンに合わせて段階的に実施されます(図5参照)。

図5

診断薬バリューチェーン全体にわたる主要機能別活動

画像
Key Dx activities by function throughout the value chain

図5

診断薬バリューチェーン全体にわたる主要機能別活動

画像
Key Dx activities by function throughout the value chain

効率性を高めるには、研究開発部門が前臨床開発の段階から、コマーシャル部門やメディカル部門と密接に連携し、部門横断的な視点を取り入れることが重要です。このようなアプローチにより、診断薬が患者のニーズに適合し、設定された臨床エンドポイントが商業化を支える確かな根拠となることが保証されます。また、コマーシャル・メディカルの準備活動としては、市場理解の深化と啓発、診断薬に特化した戦略の策定、そしてローンチに向けた組織体制の整備に焦点を当てることが不可欠です。これにより、治療薬と診断薬の両面から市場導入を円滑に進めることが可能です。

3.    CDxを追加する際の特有の業務上の課題に対処する

製薬企業は、診断検査のもつ特有の複雑性が、自社の商業戦略および市場投入戦略にどのように影 響するかを慎重に検討する必要があります。開発段階において、個々の診断薬は治療薬とは異なる商 業的・技術的な障壁に直面します。これには、タンパク質やDNAといった分析対象物質の違い、PCRや次世代シーケンシング(NGS)などの検査技術、510(k)認可を受けた検証済み機器の有無、そして体外診断用医薬品(IVD)か検査室開発検査(Laboratory developed test: LDT)かといった検査形式など、さまざまな要素が関連します(図6参照)。CDxを組み込んだ治療薬の開発を目指す製薬企業は、 まず対象となる適応症におけるバイオマーカー要件を正確に理解することが重要です。次のステップと して、分散型検査モデル(decentralized testing model)に対応できるかどうかの判断と、堅牢な償還
(reimbursement)戦略の構築が求められます。

図6

診断薬アプローチ検討上の考慮ポイント

画像
Considerations for Dx approach

図6

診断薬アプローチ検討上の考慮ポイント

画像
Considerations for Dx approach

4.    診断薬(Dx)の発売戦略を別途構築します

精密医療リーダー企業は、診断薬のローンチと治療薬のローンチを相互に関連しつつも、別個のプロセスと明確に区別して実行しています。両者は異なるステークホルダー層と課題を抱えており、それぞれに特化したアプローチが求められます。主要なCDxのステークホルダーは多岐にわたり、治療薬のステークホルダーとは大きく異なります。例えば、病理医と処方を担う腫瘍内科医を比較すれば、その違いは明らかです。したがって、認知度向上や処方意欲の促進には、明確にターゲットを絞ったアウトリーチ活動が最も効果的です。

特に新規CDxのように検査が複雑な場合、ローンチ戦略では、必要な機器や関連技術への対応、LDTのサポート体制、検体前処理に関するガイダンスなど、検査室における実務上の要件を慎重に考慮する必要があります。また、市場アクセス戦略も早期に統合し、償還や流通経路に関する課題に先手を打つことが重要です。

理想的には、企業は発売計画を策定する際に、診断薬と治療薬の発売戦略の相互作用をあらかじめ考慮すべきです。例えば、治療薬において一般的な「治療を受ける患者数」に基づく販売インセンティブは、精密医療環境では適切ではない場合があります。この分野では、スクリーニングを受ける患者数のほう

がより重要な成果指標となることが多いからです。このように、診断薬に特化した発売戦略を独自に構築することで、より広範な採用を促進し、精密医療における総合的な成功機会を高めることが可能となります。

5.    パートナーの能力を戦略的に活用しつつ、社内の専門性を育成する

製薬企業は、診断薬の開発、申請、製造に関する専門知識を有する重要なパートナーの能力を意図的 かつ計画的に活用しながら、十分な監督体制を整えることが重要です。組織の規模や既存の能力によっては、バイオマーカーの選定、検査開発、データ解析、診断薬の販売などの領域で社内のリソースが不足する場合があります。一方、治療薬チームとの密接な連携が必要な活動(例:サンプル収集や保管)や、戦略的性質を持つ活動(例:市場アクセスや価格戦略)は、社内で直接管理する方が望ましい場合もあります。

パートナーと連携する場合であっても、バリューチェーン全体を通して診断薬特有の専門知識を持つ専任の社内リソースを確保することが不可欠です。診断薬と精密医療用治療薬の両方を深く理解する専門家は希少であり、需要が高いため、早期からの人材確保と育成計画が極めて重要になります。外部パートナーの専門知識と社内の基盤知識の適切なバランスを見極めることも成功の鍵です。パートナー企業 は、製薬企業の戦略的文脈を十分に理解せず、検査最適化や上市後の活動に十分な投資を行うインセンティブを欠く場合もあります。そのため、内部の監督機能を強化し、パートナー企業と緊密な連携を維持することが不可欠です(図7参照)。

図7

主要開発活動の責任分担:診断薬パートナーと製薬企業チーム

画像
Key development activities ownership: Dx partner vs. pharmacy team

図7

主要開発活動の責任分担:診断薬パートナーと製薬企業チーム

画像
Key development activities ownership: Dx partner vs. pharmacy team

診断エコシステムを効果的に拡大することで、診断薬の上市における計画・実行の遅延を防ぎ、全体的な上市スピードを高めることが可能です。外部パートナーの活用や、社内専門人材の育成にかかるコストは、単なる必要経費ではなく、製品ポートフォリオ全体の成功を支える戦略的投資として捉えるべき です。

6.    組織全体に診断技術の専門知識を浸透させる

診断薬の成功には、診断薬のニーズが全社的に理解・支援され、部門を超えて統合され、適切にスケールし、バリューチェーン全体で優先的に位置づけられる環境の構築が不可欠です。前述のように、「オ プトアウト型」の診断薬マインドセットを採用し、早期段階から診断薬の開発および立ち上げに投資す るという戦略は、「すべての患者を受け入れる」という従来型の慣性的な考え方と衝突する場合があります。そのため、社内のさまざまなレベルからの抵抗、診断薬開発に伴う高コスト、そして治療薬と比較した際の診断薬事業の収益性の低さといった課題を克服するには、経営層による明確で継続的なコミットメントが欠かせません。また、診断薬投資を優先するにあたっては、部門横断的な連携を促進し、診断薬チームと治療薬チームの活動やインセンティブを整合させる取り組みが必要です。経験豊富な精密医療のリーダー企業は、こうした協業体制を迅速に確立することで、診断薬の開発・商業化を円滑に進め、組織全体としての成功確率を高めています。

7.    周到なライフサイクルマネジメント(LCM)戦略を組み込む

精密医療分野でリーダー企業としての地位を確立するためには、継続的な進化と改善を支えるライフサイクルマネジメント(LCM)戦略を計画的に導入することが不可欠です。製薬企業がバイオマーカーを活用したオンコロジー領域の治療法において、持続的な価値と影響力を生み出すためには、早期かつ積極的な戦略立案が極めて重要です。診断薬戦略は上市をもって完結するものではありません。真に 効果的なLCM戦略は、次世代技術の予測、適応症の拡大、リアルワールドエビデンス(RWE)の計画立案、主要ステークホルダーとの継続的な関与を可能にします。これらを体系的に実施することで、治療可能性の最大化という最終目標を推進することができます。

詳細情報のご希望や、製薬ビジネスに新たな可能性をもたらす戦略のご検討に際しては、ぜひお気軽にお問い合わせください

L.E.K.は、製薬業界全体における喫緊の課題を継続的に注視し、革新的な知見、最先端の洞察、そして実行可能な支援と戦略を通じて、お客様の目標達成能力の強化に貢献してまいります。

Questions about our latest thinking?

日本語